SLとわらび餅のおじさんがいた頃

2021-06-10


「もう知っている人は少ないと思うけど…。」

「?」

「まだ福山にもSLが走っていた頃。」

「昔ね。」

「サンステの東側出口付近は大きな踏切だった。」

「そうだった?」

「その踏切の北側の進入口から東方面に向かうと、ほったて小屋の駄菓子屋があってね。」

「ふむ。」

「そこは駄菓子、おもちゃ以外に手作りわらび餅を売ってた。」

「へぇ。」

「注文を受けると、おじさんが奥の冷蔵庫からわらび餅を取り出してきて。」

「それから?」

「きな粉に絡めて、紙袋に直接入れて、ホイっと渡してくれるんだ。」

「ちょっと待って、きな粉は別の袋に入ってるわけじゃないの?」

「トレーにきな粉がドサって盛ってあって、そこにわらび餅を入れるんだ。」

「なるほど。」

「そこのわらび餅は、楕円形で小粒だからトレーの中で混ぜるときな粉とよく絡む。」

「美味しそう。」

「そう!ただきな粉をかけただけとは違う食感。」

「ところで…。それを直接紙袋に入れるってすごいわね。まだ物が少なかった時代とはいえ…。」

「おじさんから袋を受け取ると、急いで食べないと手がズルズルになるからね。」

「あせるわ…。」

「その、あせって食べている姿を見て、おじさんはいつも笑っていたなぁ。」

「古きよき時代ね。」

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