乳がん

2011-04-16

A.乳がんとは
女性の乳房は、乳頭を中心に乳腺が放射状に15~20個並んでいます。それぞれの乳腺は小葉に分かれ、小葉は乳管という管でつながっています。乳がんの約90%はこの乳管から発生し、乳管がんと呼ばれます。小葉から発生する乳がんが約5~10%あり、小葉がんと呼ばれます。乳管がん、小葉がんは、乳がん組織を顕微鏡で検査(病理学的検査)すると区別できます。この他に特殊な型の乳がんがありますが、あまり多いものではありません。

年齢別にみた女性の乳がんの罹患(りかん)率は30歳代から増加し始め、50歳前後にピークを迎え、その後は次第に減少します。女性では、乳がんにかかる数は乳がんで死亡する人の数の3倍以上です。これは、女性の乳がんの生存率が比較的高いことと関連しています。

年次推移は、罹患率、死亡率ともに一貫して増加しており、出生年代別では、最近生まれた人ほど罹患率、死亡率が高い傾向があります。罹患率の国際比較では、東アジアよりも欧米、特に米国白人が高く、アメリカの日本人移民は日本国内在住者より高い傾向があります。

B.主な原因
乳がんの発生・増殖には、性ホルモンであるエストロゲンが重要な働きをしています。これまでに確立されたリスク要因の中には、体内のエストロゲン・レベルに影響を与えるようなものがほとんどです。実際に体内のエストロゲン・レベルが高いこと、また、体外からのホルモンとして、経口避妊薬の使用や閉経後のホルモン補充療法によって乳がんのリスクが高くなるという根拠は十分とされています。

生理・生殖要因としては、初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産歴がない、初産年齢が遅い、授乳歴がないことがリスク要因とされています。また、体格では高身長、閉経後の肥満、が確立したリスク要因ですが、閉経前乳がんについては、逆に肥満者でリスクが低くなることが指摘されています。

飲酒習慣により、乳がんリスクが高くなることは確実、また運動による乳がん予防効果はおそらく確実とされています。その他の食事・栄養素に関しては、脂質、野菜・果物、食物繊維、イソフラボンなどが注目されているものの、十分に根拠が揃っているものはまだありません。

その他、一親等の乳がん家族歴、良性乳腺疾患の既往、マンモグラフィ上の高密度所見、電離放射線曝露も、乳がんの確立したリスク要因とされています。

C.症状
【乳房のしこり】
乳がんは5mmぐらいから1cmぐらいの大きさになると、自分で注意深く触るとわかるしこりになります。しかし、しこりがあるからといってすべてが乳がんであるというわけではありません。

【皮膚の変化】
乳がんが乳房の皮膚の近くに達すると、えくぼのようなくぼみができたり、皮膚が赤く腫(は)れたりします。乳房のしこりが明らかではなく、乳房表面の皮膚がオレンジの皮のように赤くなり、痛みや熱感を伴う場合、炎症性乳がんと呼びます。炎症性乳がんがこのような外観を呈するのは、乳がん細胞が皮膚のリンパ管の中に詰まっているためであり、それだけ炎症性乳がんは全身的な転移をきたしやすい病態です。

【リンパ節の腫れ】
乳がんは乳房の近傍にあるリンパ節、すなわちわきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)、胸骨のそばのリンパ節(内胸リンパ節)や鎖骨の上下のリンパ節(鎖骨上リンパ節、鎖骨下リンパ節)に転移をきたしやすく、これらのリンパ節を領域リンパ節と呼びます。領域リンパ節が大きくなってくるとリンパ液の流れがせき止められて腕がむくんできたり、腕に向かう神経を圧迫して腕のしびれをきたしたりすることがあります。

【遠隔転移の症状】
転移した臓器によって症状は違いますし、症状が全くないこともあります。領域リンパ節以外のリンパ節が腫れている場合は、遠隔リンパ節転移といい、他臓器への転移と同様に扱われます。腰、背中、肩の痛みなどが持続する場合は骨転移が疑われ、荷重がかかる部位にできた場合には骨折を起こす危険もあります。肺転移の場合は咳が出たり、息が苦しくなることがあります。肝臓の転移は症状が出にくいですが、肝臓が大きくなると腹部が張ったり、食欲がなくなることもあり、痛みや黄疸が出ることもあります。

D.診断
【マンモグラフィー】
マンモグラフィー(レントゲン撮影)は乳房を装置に挟んで圧迫しX線撮影する検査です。触診では見つからないような小さながんが見つかることがあります。定期検診として45~50歳以上の女性に対して、年1回のマンモグラフィー検査を実施している市町村もあります。

【乳腺のその他の画像検査】
しこりががんであるかどうかや病変の広がりを診断するために、乳腺の超音波検査、MRI検査、CT検査なども有用です。

【穿刺吸引細胞診と針生検】
しこりが見つかった場合、しこりに細い注射針を刺して細胞を吸いとって調べる「穿刺吸引細胞診」により、80~90%の場合ではがんかどうかの診断が確定します。さらに多くの情報を得るために太い針を刺してしこりの一部の組織を採取することもあります(針生検)。触診では明らかなしこりを触れず、画像検査だけで異常が指摘されるような場合には、マンモトーム生検と呼ばれる特殊な針生検を行うこともあります。

【遠隔転移の検査】
乳がんが転移しやすい遠隔臓器として肺、肝臓、骨、リンパ節などがあります。遠隔転移があるかどうかの診断のためには、胸部レントゲン撮影、肝臓のCTや超音波検査、骨のアイソトープ検査(骨シンチグラフィ)などが行われます。

E.検診のポイント
乳がん検診は、問診・視触診・マンモグラフィ検査・超音波検査の全てを行うのがベストですが、全ての検査を受けるのは難しい場合もあります。そこで、年代ごとにおすすめの乳がん検診とそのポイントをご紹介しますので、早期発見のために、自分に合った検診を選んで受けてください。
【20代】
乳房の状態を把握するために、マンモグラフィや超音波などの画像検査を医師と相談してください。

【30代】
年1回、視触診と超音波を組み合わせた検診がベスト。必要に応じてマンモグラフィ検査を受診してください。30代はまだ乳腺の厚みがあるため、超音波検査を優先してください。日本女性の乳がんは40代で発症する人が最も多く、30代の乳がんも少なくありません。

【40代】
日本女性の乳がん発症のピークは40代。乳がん適齢期を自覚し、年1回はマンモグラフィと超音波検査を是非受診してください。視触診だけでは早期発見は難しいです。

【50代】
40代と同じく乳がん発症率の高い年代。更年期世代で女性ホルモンの変動があるため、乳腺の状態も変わりやすい時期。1年に1回のマンモグラフィと、できれば超音波の併用検診を忘れずに行いましょう。更年期障害の不調で忘れてしまう人も少なくありません。閉経しても乳がんにかかる可能性はあります。

【60代】
乳腺組織が萎縮し脂肪に変わるため、乳房の状態はマンモグラフィで見えやすくなります。2年に1回、マンモグラフィ検査を行いましょう。70代からは乳がんのリスクも低くなります。

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